飯田綜合法律事務所

法律顧問契約〜法務部門のアウトソースたりえるか?

顧問契約をすると何をしてもらえるのか

 乙は甲に対し、甲が依頼する事件又は法律事務につき、その都度一般依頼者に優先して法律上の鑑定、意見、助言の供与ならびに法律問題の相談を受ける。

 ただし、乙は下記に掲げる事項については、顧問料の他に、別途甲の定める報酬基準の範囲内で着手金、報酬金、手数料、鑑定料、日当または相当な翻訳料を受ける。

 上記は、一般的な法律顧問契約書の抜粋です。

 ただし書きに続いて、別途報酬等を受けるべき事案が列挙されるのですが、訴訟事件の委任はもちろん、行政上の審問、審判手続き、民事保全、破産・再生手続き、契約交渉、示談交渉、書面による鑑定、総会指導、行政または司法機関に対する各種申請手続など、通常、弁護士が費用をとって行う業務のほとんどは、別途の費用を要することになっています。

 結局、一般的な法律顧問契約書の文言からすれば、顧問契約をすることで得られるサービスのメインは、「一般依頼者に先立って(原則無料で)法律相談や法律上の助言や意見を受けることができる」ということになります。

 ビジネス雑誌の特集記事などで、大企業が大手の法律事務所と顧問契約を結び、若手弁護士に自社の一室に駐在してもらっているという話をみかけます。上にあげました、「標準的な」顧問契約とはかけ離れた印象を受けられるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。こうした場合でも、実際に弁護士が代理して内容証明を出したり、新しい契約書をドラフトしたり、あるいは、なんらかの契約交渉を相手方とする場合は、別途の費用がかかるのが通常です。むしろ、大手の事務所の方が、顧問契約の範囲外であれば、きっちりと別料金を請求されますし、企業側もそれをきちんと理解したうえでおつきあいをされているわけです。

 つまり、「その都度一般依頼者に優先して」をよりタイムリーに行う手段として弁護士の「駐在」となるわけで、その意味では、ことさら特別なことではく、一般的な顧問契約の基本形のヴァリエーションということも可能です。駐在あるいは常駐ということになれば、担当者レベルでの意思疎通もはかりやすく、常時会社の抱えている問題を把握でき、実効性の高いアドバイスをタイムリーに受けることができ、大きな効果が期待できると思われます。ただし、その分、顧問料も高額になり、現状、中小企業の皆様が容易にお願いできるような形態とは言い難いかもしれません。

 また、対応する法律事務所としても、新人を大量に採用するような大手ではない限り、一定時間とはいえ、複数のクライアントに弁護士を駐在させるようなサービスを提供するのは現状むずかしい(不可能!)といえます。

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「一般依頼者に優先して」の意味と実情

 先述した、契約書の字面に注目するなら、日常的に相談すべき事項が想定される場合において、この「一般依頼者に優先して」の実がいかに確保できるかが、依頼者の皆様にとっては、関心事となりましょう。

 筆者がかつて所属していた事務所では、顧問先の企業の方が相談事のある場合、まず、秘書を介してアポイントをとり、その日時に、相談資料をもって事務所にご足労いただくのがメインで、比較的軽微な(と依頼者側の考える)事案については、資料はファックスなどで送付していただき、電話で相談をお受けするという形でした。

 現在では、電話やファックスがEメールで代替されたり、あるいは、出張等で事務所を空けているときでも携帯電話で緊急の相談を受けるということもあるかもしれません。旧来の、アポをとって事務所に赴くというスタイルからすると、事務所側の体制というか方針の如何によって、ずいぶんとタイムリーな相談が確保できるようになったといえます。

 特に、Eメールの利用によるタイムロス軽減は、はかり知れません。たとえば、契約書のチェックの場合、対象の文書を添付ファイルでやりとりすることで、直接修正したりコメントを付して返すなどができます。もちろん、版の管理などをきちんとすることが前提ですが、大部で付属書類なども多数ある契約書でなければ、文書名の管理やワープロソフトの修正履歴あるいは版の管理機能で問題なく対応できる場合がほとんどですし、紙ベースで行うよりもはるかに効率よくチェック修正がおこなえます。しかも、エコです。

 ここまでは、「一般依頼者に優先して」という典型的な顧問契約の「範囲内」の対応について述べました。しかし、実際には、通常の相談以外の契約書上は本来、別途費用が発生する業務についても、(特に中小の事務所では)「顧問料の範囲内」として特に費用を請求せずにおこなっていると思われます。当事務所の例では(したがって、あまり一般的とは言えないかもしれません)内容証明の作成、新規の比較的短い契約書のドラフト、弁護士名での内容証明送付、相手方との直接交渉、支払督促の申立等かなり踏み込んだところまで、別途費用をいただかずに対応してしまう場合もあります。これは、筆者が中小企業との法律顧問契約を法務部のアウトソーシングに近づけて行きたいと考えていることの表れなのですが、反省すべきは、顧問契約書はあいかわらず、「一般企業に優先して相談を受ける」としか明文上はうたっていないことです。今後は、顧問契約に様々なオプションを設けて、純粋に「一般企業に優先して相談を受ける」だけの低廉な契約から、法務部門のアウトソースと呼ぶにふさわしいサービスを網羅したものに至るまでを要望や予算に応じて対応できるような体制を作りたいと思っております。

 他の事務所の例を見ても、この辺を意識して、顧問契約にオプションを設けているところは、まだまだ少ないと思います。近時、内部者通報制度の第一窓口をアウトソースするというオプションを設けている事務所がありました。これなどは、そうした例の一つと言えるでしょう。

 このように、法律顧問契約は事務所の対応により玉虫色の契約ともいえ、それ自体はあまり好ましいことではないのかもしれません。新たに、事務所を選定するときは、どこまでが顧問料の範囲なのかあらかじめよく説明を受けられた上で、締結してください。

 もっとも、一般に中小企業との顧問契約における顧問料は5万円から10万円程度ですので、基本は、「優先して相談を受ける」というのがベースになるのもやむを得ないかもしれません。その中で、どれだけ、有効な活用ができるかということだと思います。

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個人顧問、高齢者のリーガルサポート

個人で顧問契約

 個人で顧問弁護士?政治家や大資産家だけの話?決してそんなことはありません。

 一般的な法律事務所の報酬基準にもちゃんと個人顧問について規定されています。「非事業者」との顧問契約というのがそれです。非事業者というのは、わかりづらいですが、会社などの法人はすべからく事業者になりますので、非事業者とは必然的に個人事業者を除く個人ということになりましょう。

 そして、個人顧問料は、当事務所の報酬基準では、年間63,000円(月額5,250円)からとなっています。

 これを安いとみるか、高いと(無駄と)思うか・・・。気軽に利用しよう法律相談のところでも、触れましたが。身近な問題や些細なことでも法律の専門家に気軽に相談できる(話をきいてもらう)環境というのは貴重で、考え方次第ですが、そのための費用をかける意味はあると思います。

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成年後見

 認知症や精神の障害等により常に判断能力を欠いている状態にある本人にかわって裁判所が選任した後見人が財産の管理や契約などの法律行為をおこなうのが成年後見です。

 「常に判断能力を欠く」までにいたらない、「判断能力が著しく不十分」な本人が重要な財産上の契約などをする場合に、裁判所の選任した者(保佐人)が同意したり取り消したりするのが補佐人の制度です。

 さらに、判断能力の不十分な者であるが、後見や補佐が必要なまでには至らない軽度の者についての補助という制度もあります。

 後見人も補佐人も裁判所が選任します。また、後見人は無報酬が原則であり、さらに、本人の判断能力が不十分になってしまっての制度ですので、親族などがやむを得ず申し立てるという場合がほとんどでしょう。したがって、本ガイドの趣旨である、法律事務所を身近に利用するという観点からは、次に説明する「任意後見制度」が重要と思われます。

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任意後見・高齢者のリーガルサポート

 任意後見とは、将来、自分自身の判断能力が衰えたときに備えて、サポートをしてもらう内容とサポートしてもらう人(任意後見人)を公正証書により契約で定めておくものです。契約と同時に任意後見人としてサポート開始ではなく、判断能力が衰えた時に、任意後見人を引き受ける人の申立てにより家庭裁判所が後見人を監督する「任意後見監督人」を選任することで、任意後見人の業務が始まります。民法ではなく、「任意後見契約に関する法律」という特別の法律で定められた制度です。

 上記でおわかりのように、任意後見制度の特徴は、

 という点にあります。このように、当面、公正証書作成に必要な費用のみで将来ご自身が認知症等により判断能力が衰えた場合に備えることができるわけです。公正証書作成の費用は以下のとおりです。

1. 公証役場の手数料 11,000円
2. 法務局に納める印紙代 4,000円
3. 法務局への登記嘱託料 1,400円
4. 書留郵便料 約540円
5. 用紙代 1枚250円×枚数

 実際に任意後見が開始した場合の任意後見人の報酬は、月額31,500円から52,500円程と、個人顧問契約(年間63,000円(月額5,250円))よりかなり高額ですが、これは、いたしかたありません。通常の個人顧問契約は、法人の顧問と同じで、「一般依頼者に先立って(原則無料で)法律相談や法律上の助言や意見を受けることができる」というのが契約の内容で(顧問契約をすると何をしてもらえるか)、具体的な業務の委任をするものではありません。これに対して、任意後見が開始すると、任意後見人は本人の身上看護や財産管理について、任意後見契約であらかじめ定めた事項について具体的な委任関係が発生し、後見人は委任の趣旨に沿って本人のために業務をおこなう義務が生じることになります。

 一般的な任意後見契約で定められる、後見事務は、不動産等の財産の管理や処分、銀行や証券会社との取引から年金や配当、賃料などの定期的な収入の受け取り、医療機関との医療契約の締結、日常生活に必要な物品の購入に至るまで広範に及びます。こうした事務を任務として行うのが任意後見人の仕事ですので、開始後は、多くの場合通帳や銀行印、実印及び印鑑登録カード、不動産の権利証等も後見人が預かって保管します。

 注意が必要なのは、任意後見制度はあくまでも民法の法定後見を補う制度なので、本人の判断能力が不十分な場合にしか発動しません。つまり、足が不自由になったので、外出が困難なので、いろいろなことを一括で任せたいとか、少し耳が遠いとか少しくらい物忘れが多くなった程度ではこの制度は使えません。このような場合には、上述の個人顧問契約や一般の委任契約を使うことになります。

 任意後見契約の態様として、通常の将来判断能力が衰えた場合に委任関係が生じる形(将来型)以外に、移行型と呼ばれる形があります。これは、判断能力に問題のない現時点では、一般の委任契約とし、将来判断能力に衰えがきて、任意後見の要件を満たすようになったら、任意後見に移行する契約です。任意後見契約は後見監督が選任されるまでは、本人は自由にいつでも解除できますので、移行型の形態をとって、ご本人の判断能力に問題のないうちからお付き合いをすることで、信頼関係が築けますし、逆に信頼できなければ解除して別の候補者を探すこともできるわけです。契約直後からご本人と接することで、後見開始の時期の見極めもタイムリーかつより的確にできるという利点もあります。

 特に、日常の事務の委任まで必要のない場合なら、現時点で、将来型の任意後見契約と同時に、個人として法律顧問契約を結ぶということも考えられます。顧問契約だけでは、具体的な事務の委任関係が発生しませんが(従って通帳や印鑑を預かったりすることはありません)、比較的安価な顧問料で基本的にいつでも無料で相談を受けられる体制を確保できますので、現在は、判断力も運動能力も問題ないが周りに相談できる相手がいず、将来に不安があるなど高齢者の方などにはひとつの選択肢といえると思います。

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