飯田綜合法律事務所

虎の威を借る・・? 内容証明という手法

内容証明での請求は有効か?

 顧問先の企業様から取引上のトラブルについて相談をいただく際に、次のような会話がなされることが間々あります。冗談ではなく、デジャヴュのように同じ会話が幾度となく…です。

お客様
「…というわけですので、とりあえず内容証明をうってください。」
 弁 
「とりあえずと言っても、ほとんど意味がないと思いますよ。」
お客様
「どうしてですか?」
 弁 
「手紙を出しても、先方がこちらの要求に応じるはずがないからです。」
お客様
「…」

 ご注意! 以下、あくまでも筆者なりの考えですし、また、全ての事例についてあてはまるものではありません。このガイドすべてについて言えることですが…

 取引のある企業間でトラブルがおきた場合、当事者(担当者)どうしで何度かの話し合いの機会(交渉)が設けられることでしょう。交渉の間、双方それぞれ弁護士に相談することももちろんあると思います。上記のような「内容証明」云々という相談は、当事者間の交渉が難航した場合になされるのがほとんどです。

 そうした場合、内容証明でこちらの法律上の言い分をいかに説得力をもって書き連ねたからといって、相手企業が参りましたと言ってこちらの要求に応じるということは、経験上、ほとんどありません。

 まれにですが、裁判になる前の段階で双方代理人弁護士間で内容証明を何度もやりとりし、自己の主張や寄って立つ法律論を交互にぶつけ合っているケースを見受けます。明確に裁判外の示談交渉に向けての調整的な交渉ならいいのですが、基本的な法律論や重要な事実関係など根本的なところに争いがあるならば、このような「裁判の前哨戦」的な内容証明の応酬!は、ほとんど時間の無駄でしょう。何故なら、ジャッジしてくれる人(裁判官)がいないのですから。我々は、あまり意味のない内容証明のやりとりを何度もすることを「文通」と呼んでいます。

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内容証明の用法

 内容証明本来の意味は、次の二つです。

  1. 送付した手紙の内容を後日公的に証明できること。
  2. 「確定日付」を得ることができる。確定日付とは、ある書面がある日付(確定日付)当時確実に存在していた(後出しで作った物ではない)ことの公的な証明です。内容証明の場合、郵便局長の受け付けましたという証明文と受付日付が付され、これが確定日付となります。

 さらに、配達証明とセットにすることで、相手に書面が到達したこと及びその日付を公的に証明できることとなります。

 したがって、内容証明を必ず使うべき場合とは、法律上確定日付のある証書が要求されている債権譲渡通知ですとか、なんらかの意思表示等を相手にしたことを後日確実に証明する必要がある場合、例えば、クーリングオフの通知、時効中断のための請求、相手方を履行遅滞におちいらせるための催告(支払等の督促状)などの場合となります。

 ほとんどの場合には、相手がその書類を受け取ったことも後日証明が必要ですから、配達証明と必然的にセットになってくるわけです。

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心理的強制効果は期待できるか?

 内容証明郵便の効果としてよくいわれることに、心理的強制というものがあります。弁護士名で出せばそういう効果も増すと考えられます。上述の問答例でお客様はそうした効果を期待したものと言えます。しかし、企業間の場合心理的強制効果はほとんど期待できないと言ってよいでしょう。

 企業間の場合でも、これまで当事者限りで交渉していたのを、いったん打ち切って、以後は、法務(弁護士)マターに移行します、という宣戦布告の意味や相手方にも弁護士への委任を促し、法律家同士の話し合いのきっかけをつくるという意味はありますが、内容証明でする必然性は見あたりません。

 ここまでは、紛争解決手段としての内容証明の効果について軽んじたことを書きましたが、費用対効果を考えた場合に、とりうる最善の初動的な方法であることも決して少なくありません。

 例えば、法律上どう考えてもこちらの言い分に理がある(証拠もある)のに、相手が問題を良く認識していない、全く話し合いに応じない、という場合が特に個人間の争いのケースで間々見受けられます。こうした場合に、弁護士が代理して内容証明を作成し相手方に送付しますと(当然、事実のみならず、要求の法的な根拠や場合によったら証拠も別送します)、相手方も法律相談などで弁護士に相談することが予想されます。そうなればしめたもので、自分が相談した弁護士に「これはあなたの側に○○の義務がある」とか「裁判をされれば負けます」と言われれば、少なくとも無視を決め込むことはなくなることが期待されます。これで示談になれば最も安く早い事件解決です。これも広い意味での心理的強制なのかもしれませんが、虎の威を借るとはちょっとちがいますよね。

 また、こちらが思いもしなかった反論や反対の証拠が出てくるかもしれません。それはそれで、意味のあることです。(ただし、通常は、「文通」はここまでです)

 特に、請求の額が少額の事件であれば、内容証明限りという選択(それでだめなら、また考える、あるいは、あきらめる)もあり得るのです。

【日本郵便の内容証明に関するサイトはコチラ】

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逮捕や起訴された時に弁護を依頼する

 刑事事件の被疑者や被告人になってしまった場合、弁護士が必要であることは言うまでもありませんが、本ガイドの目的である、積極的な法律事務所へのアクセス・利用という観点からは、少し異なります。

 国選弁護人、被疑者国選弁護人、当番弁護士制度等の公的なしくみが充実しておりますので、「Chapter2 当番弁護、国選弁護(刑事事件)」の項をご覧下さい。

 CHAPTER1 了

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