法律Q&A
(C)Powered by LON

ホーム > 法律相談Q&A > 夫婦生活・離婚・養育費

夫婦生活・離婚・養育費

慰謝料を請求しないと覚書を交わして離婚した。離婚後に夫が婚姻中に不貞行為をしていたことがわかった。慰謝料請求はできないのか。

 慰謝料を請求しないと覚書を交わして離婚した。離婚後に夫が婚姻中に不貞行為をしていたことがわかった。慰謝料請求はできないのか。

 離婚の際に取り交わされる離婚協議書は、子供の養育をどうするかなどの点を定める部分と、慰藉料や財産分与をいくらにするか、という示談書の性質を持った部分とが合わさったものだと考えられますが、示談書については、民法上和解契約であると解されます。契約の締結において、当事者が何らかの錯誤に陥っていた場合は、契約を締結すると言う「意思表示」が民法95条の錯誤に該当し無効となる、というのが一般原則です。しかし、和解契約においては、民法696条において、争いの対象となっている権利が存在しないと認めたのに、あとから権利があることが明らかとなった場合には、その権利は和解によって消滅したものと扱うと定められています。この規定があることによって、和解契約によって権利が放棄されたり帰属が決められた場合には、後日錯誤による無効の主張が出来ないことになります。このような規定が定められているのは、和解というものが争いの解決をしようとする意図でなされるものであるため、錯誤によって無効になっては意味がなくなるからだ、とされています。従って、もし離婚協議において、慰藉料請求権が存在するかしないかが争われた上で、示談書において慰藉料は請求しない、ということを定めたのであれば、この民法の規定に基づいて錯誤による無効の主張はできないということに成ると思われます。しかしながら、この錯誤無効の主張が出来ない場合は、あくまでも示談の前提として争った事実についてに関するものです。和解(示談)の前提として争われなかった事実について、錯誤があれば、錯誤による無効の主張が認められるとされています。従って和解の前提として不貞行為があったことが問題にされていないのであれば、錯誤無効の主張が認められる可能性があると考えられます。なお、交通事故などの不法行為の示談と後遺症についての判例は、「示談における賠償請求権の放棄は、示談の当時予想していた損害にのみ効力が及ぶのであり、予想できなかった損害についてまで賠償請求権を放棄したものと解釈されてはならない」旨を判示しています。この判例は、契約の解釈テクニックとして、示談契約の効力を限定していますが、同様の考え方によっても、示談の当時明らかにされていなかった不貞行為についての慰藉料請求権までも、示談契約で放棄したとはされない可能性が高いことを示していると思われます。示談当時の状況などによっても結論は左右されますが、全く不貞行為が疑われないような状況で示談しているのであれば、不貞行為に基づく慰藉料請求権は放棄されておらず、依然として請求が出来る可能性が高いと思われます。

 執筆日20060619