- 中絶する気がないのに中絶費用をもらった。
中絶する気がないのに中絶すると嘘をついて中絶費用を男性からもらった。詐欺になるのか。 まず中絶費用の性質を考えて見ます。理由のない中絶は優生保護法で禁止されていますので、そのような中絶をするために金銭を渡すことは不法原因給付として、被害者からの返還の請求が認められない性格のものとなると言えます。これは、例えば、通貨を偽造するための資金にすると偽ってお金を出資させる、などの行為と同じと言えるでしょう。もっとも、中絶の中には、経済的理由その他の理由により、違法ではない場合があります。その場合は、中絶費用を子供の父親が支出すること自体は違法ではありません。以上を前提とすると、中絶のために支出した費用が違法ではないものであれば、それを騙し取る行為は、詐欺になります。では、支出自体が違法なものであった場合、それを騙し取る行為は、詐欺にならないのでしょうか。これについては、学説の中には、このような不法原因給付の場合、被害者には返還を請求する権利がないのだから、詐欺によって損害が発生したとは言えない、として、詐欺の成立を否定する見解もあります。しかし、判例は、一貫して詐欺の成立を認めています。上記の通貨偽造についての判例などがそうです。また、多くの学説も、このような不法原因給付の場合であっても、詐欺罪が成立するためには、財産上の損害があることは要件とされていないので、不法原因給付の場合であっても詐欺が成立すると解しているようです。以上から、中絶についての費用を渡す行為が合法である場合は勿論、違法であって不法原因給付となる場合であっても、詐欺罪は成立します。
執筆日20060427